2025年1月1日発行の主要全国紙「産経新聞・読売新聞・朝日新聞・毎日新聞」といつも愛読している「日本経済新聞」を読み比べて、その主要記事、社説、ポイントをまとめてみた。
昨年は国内の「政治とカネ」に多くの紙面が割かれていたが、今年は国内よりも世界規模で秩序の崩壊が進んでいることが憂慮されている。
また、国内の元旦の新聞でありながら、石破首相をはじめとする国内政治家の登場がほとんどなく、隣国の尹大統領の拘束令状に関する話題は全紙がページを割いている。
産経新聞
別姓 小中生の半数反対
一面トップは選択的夫婦別姓制度の導入に対して、小中学生のほぼ半数が反対しているという記事で始まっており、三面にも関連記事が続いている。数週間前に読売新聞でも成人向けに同様のアンケートを行った結果が掲載されていたが、そちらも法改正に反対する人が半数を超えていたはず。
国民の反対意見が多いという分析が多い中で民法改正案の国会提出の準備が進んでいるが、一面・三面の記事の共にアンケート結果の分析に終始しているだけである。淡々と分析しているようにみえるが、「次期国会での法案成立が現実味を帯びている」という部分がこの国の危うさを指摘している部分のように感じる。
年のはじめに ~未来と過去を守る日本に
「今年は日本の未来と過去を守らなくてはならない年になるだろう」で始まり、「戦後初めて戦争を仕掛けられる恐れがある」と続いている。統合幕僚長が昨年最後の記者会見で危機感をあらわにしたのに対し、日本の政治が危機感を共有できていないことに大きな懸念を示している。
最後に分断と対立が深まっている現状を我が事と認識できていないことを指摘し、戦後80年について二点の指摘事項で締められている。一点目は大東亜戦争において当時の日本人には人種平等の実現や欧米植民地支配打破の理想があったこと、二点目は史実を踏まえた議論の大切さを指摘している。
最後の段落にあった二点の指摘事項には唐突な印象を受けたが、意訳すると「欧米では分断と対立を進み後戻りができない状態に入りつつあるが、同様の事態において我が国は理想を掲げてこれに対処したことを再認識すべきである」と主張したいのかとも読み取れる。
昨年の「年のはじめに」では国際情勢に能動的に関わる必要があることの重要性を述べているが、さらに一歩踏み込んだ表現になっている。
三面以降の記事
特集記事には宮家氏の対談記事で「大戦間にあたる戦間期が終焉を迎えそう」なことを指摘し、国際面では中国経済の内憂外患、アメリカによるウクライナへの追加支援、ウクライナ・イスラエル・台湾の3つの圏域で進行する紛争危機など、昨年同様に平和を脅かす記事の割合が高い。
読売新聞
中国 宮古海峡で封鎖演習
沖縄本島と宮古島間の宮古海峡での海上封鎖や重武装をした海警船団を尖閣諸島周辺に派遣していることを報じている。台湾有事を想定し、今後は台湾だけでなく日本への圧力を強める可能性が高まっている。
二面にも関連記事が続き、軍艦並みの海警船が尖閣諸島の接続水域を航行しており、実効支配に向けた動きが活発化していることを指摘している。
社説「平和と民主主義を立て直す時」
ここ数年、民主主義の危機を論じているが、今年も同様の主張になっており、三つの危機として「平和の危機」「民主主義の危機」「自由の危機」を挙げている。
「平和の危機」はロシアとウクライナ、イスラエル、中国の軍事力拡大、アメリカではトランプ大統領の再登場等を挙げ、平和と繁栄を支えていた国際秩序は風前の灯火であるとしている。
「民主主義の危機」では主要国の政治体制が揺らいでいることや社会的な分断が表面化していることが民主主義を揺るがし始めていることを指している。自国第一主義と自国唯一主義を混同し始めている状況に対して我が国が国際協調を訴える先頭に立つ必要を訴えている。
昨年まで指摘されておらず今年初めて指摘された「自由の危機」とは、インターネットの影響により誤った情報によって自由な意思形成が妨げられている事態を指している。
最後に自由とは節度や責任と一体の関係にあることを挙げ、新しい秩序を形成する際に力を発揮するには人類共通の理念、節度ある国民レベルの行動の積み重ねが不可欠であるとしている。
三面以降の記事
一面に「能登地震一年なりわい苦境」として被災地での事業再開が遅れていることを指摘しているが、政治面でも国土強靭化に関する半島振興法改正案大綱が掲載されている。
政治面には石破首相が写真付きで紹介されている。
毎日新聞
デジタルで問う「真の民意」
どの新聞社もSNSやYoutubeの問題を指摘する傾向が強いが、ここではそのような批判を全く書かず、民主主義が力を取り戻す道具としてのデジタルの活用について述べている。
リクリッド(Liqlid)というプラットフォームを中心に、デジタルが直接民主主義を実現するツールとして活用できることを示し、三面では「民主主義は更新されるもの」としてオードリー・タン氏へのインタビュー記事を掲載している。デジタルツールありきではなく、モノの考え方が先にあるという点に加え、「民主主義もツール」なので絶えず磨く必要があるとしている。一面から三面にかけて非常に新鮮味を感じる内容になっている。
社説 混迷する世界と日本「人道第一」の秩序構築を
ロシアのウクライナ侵攻、中東問題、トランプ大統領による貿易戦争など、自由貿易のルールは風前の灯火で、国連は二つの戦争を止めることもできず、法の支配は崩壊の危機にあるとしている。
このような状況の中、日本には自国第一が幅を利かせている世界を人道第一へ軌道修正させる外交努力が必要としている。
また、民主主義の後退も食い止めるべきとしている。SNSで増幅された不満や怒りが社会の分断に繋がっているが、他者への共感で暴力と憎悪の連鎖を断ち切り、対話を通じて争いごとを経穴する人間らしい社会の再構築が求められているとしている。
三面以降の記事
国際面には「トランプ氏再登板揺らぐ世界」として米国、中国、ウクライナ、中東の状況を解説していることに加え、オピニオン面でも「トランプ対中国」に紙面を割いている。
朝日新聞
例年、朝日新聞はちょっと不思議な独特の紙面構成である。今年も同じような路線にも見えるが、中身が無くなっていないかと感じる部分もある。
つながり 耕す 能登と一緒に
観光で訪れる「交流人口」と移住・定住する「定住人口」の中間として、継続的に地域と関わる「関係人口」に着目し、新たな地方の在り方を一面・二面に示している。
社説 不確実さ増す時代に 政治を凝視し強い社会築く
国内外ともに不確実さが増していることを指摘し、「自由で繁栄した国家のためには『国家』と市民がなす『社会』が拮抗することが必要」というアセモグル氏の指摘や1950年代以降の国家と社会の推移を解説しながら民衆に「政治を凝視する大切さ」を求め、民衆こそ民主主義の主役たれと説いている。
三面以降の記事
一面の傍らと三面ほぼ全面を使ってに尹大統領の記事が掲載されている。四面の上半分が郵便の在り方、国際面はミャンマー移民の話となっている。最新のニュースだけで構成しないというのが朝日新聞の元旦のお決まりではあるが、尹大統領のニュースには紙面を割き、その他の国内外の大きな話題には触れないという点には違和感を感じる。
日本経済新聞
逆転の世界 備えよ日本
ポピュラリズムが台頭し、自由貿易は形骸化するとしている。我が国においても国際秩序にただ従う姿勢は通用せず、供給・販売網の再構築が不可欠としている。世界の危機について一面、三面に止まらず、複数面に関連記事を掲載している。
社説 変革に挑み次世代に希望つなごう
不確実性が増し、民主主義が問われる年になるとしている。高度成長期、経済低迷期を経て、時代遅れの制度や慣習を見直し、再構築する必要性を指摘している。
三面以降の記事
二面に能登地震から一年を経て事業再開が6割にとどまっている話、国際面はシリアの混乱、ロシアとウクライナの捕虜交換、トランプ大統領、特集では「時刻に生まれて幸せか」のアンケート結果や、AI、月にいつ住めるか、国内外の人口動向などが掲載されている。
職業柄、経済の視点でモノを見ているということもあるが、非常にバランスの良い紙面構成であると感じた。
総括
一昨年の元日の朝刊を読み返してみると全ての新聞が「民主主義の危機」、昨年は「政治とカネ」「平和」が主たるテーマになっていた。
今年はというと、既に平和な状態は崩壊し始め、それが「秩序の崩壊」に繋がっており、この状態に如何に対処するかということがテーマになっているケースが多い。
民主主義の危機は国外に限らず、国内でもそれを引き起こす要因があることは数年前から指摘されてきた。このような事態への警鐘が鳴らされていたが、好転することなく今に至った感がある。
国内では政治不振や政治とカネの問題、法を軽んじる政治家等、民主主義の危機を引き起こす要因にもなりつつあると指摘されていたが、これらの問題は何も変わらないままである。
「秩序の崩壊」に関しても我が国の役割を期待する論調はあるものの、ここ数年の「新聞紙面で期待された役割を何も果たせていない」という状況をみるとこの国に期待しても何も出来ないのではないかという失望感も感じる。
国際的な役割を果たすことに関しては日本が何かの役割を果たすということは絶望的であろう。しかし、国内に目を転じると移民政策に関する問題や一部の政党、政治家の問題が論じられるようになるなど、数年前には記事にはなっても市民の話題には上らなかったことが論じられるという状況が生まれるる点には期待が持てる。