ローコードツールを導入した事業者から、「導入したものの上手く機能しないので改善方法を教えて欲しい」とのご相談を受けました。その際に見受けられた問題点と解決策について、複数回にわたってご紹介します。
属人化したExcelの限界と、経営判断の危機感
この企業では、熟練社員がExcelを用いて業務全般の管理を行っていました。
業務の多様化に合わせて関数やマクロが次々と追加され、若手社員からは「操作はできるが内部的な動きが分からない。入力を間違えた時に何が起きるのか、どうやって修正すればよいか、分からない」との声が上がっていたようです。
属人化が進んでいるとことに危機感を抱いた経営者は、若手社員を中心にローコードツールに置き換えるプロジェクトを立ち上げました。
「誰でも使える」が、「誰もつくれない」へ
ローコードツールでシステムを構築にあたり、支援したベンダーからは「まずは作ってみましょう」「画面を作って、入力と出力を検証しながらシステムを作りましょう」とのアドバイスもあり、業務知識に不安がある若手社員でも気軽にシステムを作れたそうです。
入力画面はすっきりと見やすくなり、誰もが直感的に操作できるようになったということで、現場でも評価されていました。
ところが経営会議用に作られる資料に関しては、「形式的には従来のレポートと同様の形式になっているが、経営判断に繋がる情報が欠落している」という指摘がありました。
また、受注量が生産量を超えるような特殊なケースにおいて、適切な生産計画を作ることができないという問題も指摘されました。
熟練者が作成していたEXCELであれば作成できていた経営判断の資料や、繁忙時の生産計画を新システムでは再現できなくなっていたのです。
属人化の排除と、知見の喪失は紙一重
この事例が示すのは、「属人化=悪」という一方的な捉え方が生みだしたものです。
属人性には、「業務知識」「判断の勘所」「情報のまとめ方」など、属人化されていたからこそ保たれていた価値も多く含まれています。
また、システム構築に取り組む際に「何を作るのか」を明確にしておけばよかったのですが、それが洗い出しきれない状態で「まずは作ってみましょう」のアドバイスで取り組み始めたことも問題を起こした要因の一つです。
形式としての業務を標準化することと、考える力を仕組みに組み込むことは、まったく別物です。
ローコードツールの導入によって、表面的な操作の属人性は解消されましたが、暗黙知や経営判断の視点までは継承されませんでした。
デジタル導入は「仕組みの移植」ではなく「思考の継承」
古いシステムの更改を検討する際に「属人性の排除」「ブラックボックス化・スパゲッティ化の排除」という意見が出ることがあります。
それ自体は誤った考えではないのですが、問題の本質を捉えずに、「最新のソフトに入れ替えれば解決」と単純にとらえている事例は数多くみられます。
ITツールの導入とは、単なる「技術の入れ替え」ではありません。
そこでどのような処理を行い、どのような結果を出しているのかという思考の再構築が伴ってはじめて、ツールは本来の力を発揮します。
属人化を排除するという取り組みの中でも、「排除すべきもの」と「継承すべきもの」を見極める目が必要です。