ローコードツール導入の落とし穴(2)データ連携の壁

ローコードツールを導入した事業者から、「導入したものの上手く機能しないので改善方法を教えて欲しい」とのご相談を受けました。その際に見受けられた問題点と解決策について、複数回にわたってご紹介します。前回は「属人性の排除」に関してお伝えしましたが、今回はデータ連携に関するお話です。

「誰でも使える」は「全体で使える」とは限らない

前回もお伝えした通り、この企業では熟練の社員が駆使していたExcelベースのシステムを、若手社員の手によってローコードシステム化しています。
入力画面はすっきりと見やすくなり、誰もが直感的に操作できるようになったということで、現場でも評価されていました。

日常的な業務の殆どがローコードシステムへ移行し、データも蓄積し始めたところでこれらを統合管理しようとし始めたところで問題が発生しました。
経営者から指摘されたのは、「原価や生産性、人員配置を横断して見ることができない」というものです。

ローコードで作成されたシステム群は、以下のように担当部署毎に独立して作成しました。

  • 見積・発注アプリ(購買部)
  • 生産管理アプリ(製造部)
  • 勤怠管理アプリ(人事部)

これらはそれぞれに最適化され、現場レベルでは効率化が進んでいました。
基本的なデータは各アプリ間で共用することを想定していたものの、アプリ間連携を想定していたデータ以外の扱いは個人任せでした。
例えば、「見積・発注アプリ」で出力された注文数量は「生産管理アプリ」で参照することを想定しているものの、「見積・発注アプリ」で管理する発注リードタイムと「生産管理アプリ」で管理する製造リードタイムを一緒に処理することは想定していませんでした。
このため、以下のような問題が多発し、データを横断的に結合して経営指標として使うことができなくなっていました。

  • 同じような意味のデータをアプリ毎に異なるデータ構造で作成している
  • 同じ名称を使いながら意味の異なるデータが存在する
  • 存在物理的に他システムと連携出来ない構造になっている

繋げようとしなければ連携できない

この状態は、いわゆる「システムのサイロ化(情報の孤立化)」と呼ばれるものです。
個々の仕組みが効率的であっても、それらが連携できなければ、経営に必要な視点を得ることはできません。
特にローコードツールのように専門的な知識がなくても作れてしまう環境では、部門単位で完結するアプリが量産されがちなので、次のような事象が発生することが散見されます。

  • データ構造や命名規則に統一がない
  • 横断的に集計するための設計思想が欠落している
  • 部門で決めたこと以外は個人任せになり、個人で作成するより統一性が無くなる

ローコードツールの多くは直ぐに画面が表示され、必要なデータも画面上は収集できるようにも見えるのですが、内部的に繋がっている、または繋がるような構造になっていなければ連携できません。

何をするかの目標を持つ

この企業からは「業務全体の電子化が進んでいるのでRPA等を使ってデータ連携させられないか」というご要望がありました。
しかし、業務フロー全体を把握している人が誰もおらず、データの形式や意味も統一されていない状態です。RPAによるデータ変換を追加するだけで問題解決するとは思えず、例えできたとしても非常に煩雑な連携システムになりそうです。
折角作ったローコードシステムという思いはあるようですが、こうなると開発以前の業務分析からやり直さなければなりません。

ローコードツールは誰でも簡単に開発できるというメリットがある反面、設計の不備や考慮漏れがシステム全体に広がったり、局所最適に陥りやすいというリスクがあります。
部門横断的に活用するようなシステムを開発するのであれば、ITベンダーがシステム開発する時と同様に、最終的な開発目標を設定することやそれに伴い必要な事項を検討、設計書の作成などは必要です。